ミスチル『名もなき詩』に込められた愛を考える―あるがままに生きる困難さと慈しみ

「ミスチルの曲で何が一番好きなんですか?」

こんな質問を浴びせられたミスチルファンは200曲以上にも及ぶ楽曲の中で、大いに戸惑ってしまうに違いない…

だが、敢えて言おうッ!

としちる

『名もなき詩』こそがナンバーワンだと…!

Mr.Children『名もなき詩』とは

フジテレビ月9『ピュア』主題歌でもあり、オリコン史上はじめて初動売上のみで100万枚を突破したのが、この『名もなき詩』。初動売上はなんと120.8万枚!

しかし、2011年に発売されたAKB48『Everyday、カチューシャ』が初動133.4万枚を達成して15年4ヶ月ぶりに塗り替えられてしまったんですが、

  • 週間1位(オリコン)
  • 1996年2月度月間1位(オリコン)
  • 1996年度年間1位(オリコン)
  • オリコン歴代シングルランキング12位
と、最終的な累計売上は230.9万枚を達成していて、ミスチル楽曲の中でも『Tomorrow never knows』に次ぐ売上を果たしている「NO NAME」どころか「BIG NAME」として知られる曲でしょう。

5thアルバム『深海』に収録され、ベストアルバムの通称「骨」こと『Mr.Children 1996-2000』にも収録されています。

ミスチル史上最高売上!『Tomorrow never knows』―心の赴くまま生きようじゃないか!

ざっくりまとめるとこんな歌詞!

僕は兎にも角にも、『名もなき詩』の歌詞がとてつもなく好きなのです。

どうして好きなのか?

歌詞のポイントをまとめるとこのようになるでしょう。

  • 身近にある「愛・自由・希望」と「絶望・失望」と向き合う
  • あるがままに生きようと願うからこそ他者とぶつかり合う困難さ
  • 僕から君へと捧ぐ慈しみの詩
参考 Mr.Children 名もなき詩 歌詞J-Lyric.net ▼Mr.Children「名もなき詩」Mr.Children “HOME” TOUR 2007 ~in the field~

『名もなき詩』に込められた愛―あるがままに生きる困難さと慈しみ

ちょっとぐらいの汚れ物ならば 残さずに全部食べてやる

Oh darlin 君は誰 真実を握りしめる

こんな冒頭からはじまるのが『名もなき詩』なのですが、続く1番サビ前の歌詞では

こんな不調和な生活の中で たまに情緒不安定になるんだろう?

でも darlin 共に悩んだり 生涯を君に捧ぐ

と歌い上げるように、君と僕との「愛」を語りかけていきます。

『名もなき詩』に大きく込められているのは大袈裟に言えば、こうした愛だと思うのですが、さすがことばの魔術師桜井さん。

それが全てだとは歌い上げるわけではなく、むしろ日常に何気なくあるわだかまりややるせなさも以下のように吐露していきます。

いろんな事を踏み台にしてきたけど なくしちゃいけないものがやっと見つかった気がする

そして、2番のサビ!とてつもなく「それだ~!」と唸ってしまう歌詞がこちら!

愛はきっと奪うでも与えるものでもなくて 気が付けばそこにある物

街の風に吹かれて唄いながら妙なプライドは捨ててしまえばいい そこからはじまるさ

絶妙なバランス感覚の中で語られる愛だとは思いませんか…

そうなんですよ、奪うのでも与えるのでもなく「気が付けばそこにある物」が愛というわけです…

さぁ、大きな使命感のような愛をどこかに流してしまった先に何が歌われるのか!

絶望、失望(Down) 何をくすぶってんだ

愛、自由、希望、夢

足元をごらんよきっと転がってるさ

ここから一気に歌い上げるCメロ!ここもたまらない…

成り行きまかせの恋に落ち 時には誰かを傷つけたとしても

その度心いためる様な時代じゃない

誰かを思いやりゃあだになり 自分の胸に突きささる

思うにここで歌われる「恋」は必ずしも「恋愛」といった意味ではないんじゃないかってよく考えます。

例えば「趣味に恋する」というように恋ということばは「何かしらに熱中する状態」を指して使われます。

時に自らの情熱を優先して「あるがままに生きよう」とすることで、誰かを傷つけてしまうこともあるでしょう…

そして、また同時に誰かを思いやることをすればまた自分にあだとなって返ってくることもあるわけです…

しかし、しかしです!続く歌詞を見てみましょう。

だけど

あるがままの心で生きようと願うから 人はまた傷ついていく

知らぬ間に築いていた 自分らしさの檻の中でもがいているなら誰だってそう

僕だってそうなんだ

「それでも」とあるがままにそれぞれが生きようとするからこそ、時に折り合いがつかない中で傷ついていくんです…

そんなある種の「自分らしさ」は知らぬ間に築かれているものだという…

最後の大サビでもやっぱり「上手くいかない」ことが歌われるんです。

僕はいつもここに救われる思いがします。

というのも、「愛」なるうん千年と使われてきたパワーワードを使いつつも、日常の何気ない選択からはじまる個々人の「生き方」に最後まで寄り添ってくれるからです。

『名もなき詩』がリリースされた当時は不倫問題などで、プライベートでも桜井さんが厳しい状況にありました。ミスチル現象と言わしめるほどのスターとして駆け上がっていったその最中に、「あるがままに生きる」ことの困難さを取り上げつつ「僕だってそうなんだ」と書き上げるその姿勢に、一当事者としての苦悩が垣間見えるように思うんです。

考察:「名もなき詩」とは何を指しているのか?

さて、結局のところタイトルでもある「名もなき詩」とは何を指しているのかを考察してみましょう!

大サビが終わったラストに歌われるのがこちら。

愛情ってゆう形のないもの 伝えるのはいつも困難だね

だから darlin この「名もなき詩」を

いつまでも君に捧ぐ

歌詞の中でメタ的に『この「名もなき詩」』と書き上げてしまうのはさすがの一言ですが、この言及があって一気に「名もなき詩」の範囲は拡大すると思うのです。

敢えてこの歌そのものを「名もなき詩」とすることによって、ただ単に「君への愛」を述べるものではなくなっていると思うのです。

2番のAメロにて「どれほど分かり合える同志でも孤独な夜はやってくるんだよ」とあったり、大サビにて「あるがままの心で生きようと願うから人はまた傷ついていく」とあったりするように、もっと広く人が人として生きる上での「分かり合えなさ」や「困難さ」が描かれています。

ラストでも「愛」ではなく「愛情」としているのもポイントでしょう。

もはや、ラストの歌詞の時点では恋人だけでなく友、いやもっと広く言えば「他者」と「私」の関係が描写されているように思うんです。

つまり、『この「名もなき詩」をいつまでも君に捧ぐ』の君は、愛する「他者」であるとは言えないでしょうか?

歌詞で描かれる僕や「他者」、総じて「人間」は、「あるがままの心で生きようと願い」「また傷ついていく」というわけです。

言うなればこれは桜井さんなりの「人間賛歌」なんだと僕は歌詞解釈を繰り返すうちに思い至るようになりました。

だからこそ、「名もなき詩」としてあらゆる人に捧げられた歌なんじゃないかと。

おわりに

桜井さんは「歌詞の解釈はリスナーに任せる」と発言しているので、もちろん、この解釈そのものも一つの意味付けをするものにしか過ぎません。

ですが、個人的には「名もなき詩」はあるがままに生きる上での困難さと、それでもそんな生き方をしてしまう人に向けられた慈しみの詩なんだと僕は解釈しています。

面白いことに、収録されているアルバム『深海』では、次曲に『So Let’s Get Truth』が、さらに『マシンガンをぶっ放せ』が続くんですよね。

『名もなき詩』で個々の生き方や愛を歌いながら、社会風刺の楽曲を続けているところに、『深海』はもちろん、『名もなき詩』の意義付けも奥深さが増しているんじゃないかと思います。

以上、『名もなき詩』の考察でした!