拙稿「自己責任ディスコースの詩的連鎖」(『社会言語科学』)が刊行されました

『社会言語科学』第23巻2号に「自己責任ディスコースの詩的連鎖―ISIS日本人人質事件におけるブログ記事に着目して―」が掲載されました。

 研究ノートを紀要誌に書いた以外では、初の学術雑誌となりました。投稿時期や査読過程にもよりますが、わりとスムーズに進んでも提出から約1年はかかることを実感しました。今回の査読はコロナ禍で通常より遅れ気味だったようです。

 掲載まで指導教員の先生にビシバシと書き方を指導してもらったおかげでそれなりに良いものが書けたと思っていました。がしかし、恥ずかしながら見直すとボロが出てしまっていたことを発見しました。校正の段階でも丁寧に見たつもりで、それなりに赤入れを施したのですが……おっちょこちょいな自分はものすごく丁寧に見てくれる人に二重チェックを頼む必要があることを痛感します。気づいた箇所の訂正箇所をここに追記しておきます。

訂正箇所

p.20: 「意識下に登りやすい」→「意識下に上りやすい」
p.20: 「意識下に登りにくい」→「意識下に上りにくい」
p.22: 「意識化に登りやすい」→「意識下に上りやすい」
p.22: 「意識化に登りにくい」→「意識下に上りにくい」

p.22「Jacobson」→「Jakobson」※人名を間違えてしまっているのも致命的でした…

p.23: 「命題化 (rhematization)」→「名辞過程(もしくは名辞化)」※誤訳のため後述

誤訳「rhematization」について

「rhematization」を「命題化」と記載してしまったことは、内容理解に関わる誤訳のため取り急ぎここで簡易的に補足します。

 rhematizationは、Gal SusanとJudith Irvineによってもともとは「iconization(類像化)」とされていた分析概念です。この分析概念を知った際、批判的談話研究における「名詞化」と類似的であること、それ以上に幅広い記号過程に遍在する現象を抽象的に抽出して一般化したものだと受け取りました。このrhematiazationの分析概念は、明示的に言語化されたものだけでなく、暗黙理に認識されるイメージや考え、あるいは情動的に感知する心理性も含まれるものです。こうした捉え方は、パース記号論における第一の性質に該当する「類像性」かつ「名辞」が主だって該当するものです。そのため、初期には「iconization」、後にはパースの用語「rhema」に習って「rhematization」となっており、用語は変わっているものの、Gal & Irvineは一貫して第一性質を基底にしたもののの組み合わせで存在・遍在する記号過程を指示していたことになります。

 パース記号論の体系図が下記になります。

パース記号論の三幅対

さらにパース記号論が組み合わさり、成り立つ記号関係を詳細にまとめたものが下記になります。

パース記号論の三幅対の組み合わせ制限

 このように、rhemeは第一性の「潜在態・現実態・規則態」のいずれか、さらに第二性の「類像」、第三性の「名辞」において幅広く該当するものということになります。パース記号論に関する知識・理解がまだままならない中で、rhematizationを「命題化」と把握してしまっていました。ここまで気づかなかったのは端的に自分の理解不足です。

 幸い、拙稿で記載しているrhematizationの説明箇所である「ある出来事や認識・行為が指標的記号として類像化(iconization)される言語使用・操作・解釈の記号過程」(p.23)は間違いではないと思います。そのため、内容に関する直接的な不備ではないと現段階では考えます。

おわりに

 文章を書き終わる度に思うのが、一定程度の質的向上を実感すると同時に、多少なりとも時間が経ってしまうと目に付く不備の数々に対する若干の嫌悪感です。嫌悪感といっても変にネガティブにというよりも、「あー、しまったー!」から徐々に「やってしまった……」といった驚きと焦りから無念に至るまでの感情の推移です。

 こういう失敗を積み重ねながら、一歩ずつやっていくしかないのでしょう。反省すべきことはきっちり反省し、活かせる具体的なことは具体的に活かすように実行するといった感じで、今後もやれることをやっていきたいと思います。今後、投稿する際には半日時間をかけてでも漢字・スペルを一字一句確認するダブルチェックをやるつもりです。そうした時間もしっかりスケジュールに組み入れて研究に取り組みたいと思います。

「思い込みは(研究にとって)最大の敵」

胸に刻みたいと思います。

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