ディスコース研究/言語学に関する書籍紹介

最終更新:2023年8月11日

会話分析・ディスコース分析 ことばの織りなす世界を読み解く(2007)

出版社:新曜社
著者名:鈴木聡志

 ディスコース心理学を専門とされる方による、「会話分析」と「ディスコース分析」の入門書。コンパクトながら、それぞれの分野の要点を事例を踏まえて簡潔に解説してくれるので、手にしておくのをおすすめ。特に「批判的談話分析」に対する批判的論争を第三者的視点からまとめてくれているのが良い。

記号の系譜 社会記号論系言語人類学の射程(2008)

出版社:三元社
著者名:小山亘

 パースの記号論、ヤコブソンの6機能モデルからマイケルシルヴァステインの出来事モデルを理論的軸に、社会記号論系言語人類学を解説する専門書(三部作の第一作)。社会思想の歴史的な展開も踏まえて解説されるのでとても難しい。大学院生向き。「出来事」を中心に語られるコミュニケーション論は少ないので、深く学びたい人は読むべき一冊。

記号の思想 現代言語人類学の一軌跡 シルヴァステイン論文集(2009)

出版社:三元社
著者名:小山亘

 社会記号論系言語人類学三部作の二作目にあたる。出来事中心の文法理論と社会的な相互行為次元の体系を結びつけたとされるシルヴァステイン(Silverstein)の重要な4つの論文集とその解説がされている。できるだけ日本の研究者向けにわかりやすく記述しているとされるが、それでも難しい。一作目が社会思想的系譜、三作目が言語イデオロギー的系譜で論証されているのに対し、二作目である本著では「言語理論」に焦点があたっているのが特徴。

儀礼のセミオティクス メラネシア・フィジーにおける神話/詩的テクストの言語人類学的研究(2017)

出版社:三元社
著者名:浅井優一

 メラネシア・フィジーを舞台にフィールドワークを行った著者の博士論文を題材に書籍化したもの。社会記号論系言語人類学によるアプローチで、フィジー植民地政策の歴史や文章、さらには研究対象地である村(ナタレイア)における首長の即位儀礼をめぐったやり取りなどを分析している。社会記号論系言語人類学の民族誌として貴重な研究事例で、「第1部 言語、意識、テクスト」のまとめも勉強する上でとても参考になる。

近代言語イデオロギー論 記号の地政とメタ・コミュニケーションの社会史(2011)

出版社:三元社
著者名:小山亘

 社会記号論系言語人類学を著した小山亘による三部作の最後を飾るのが本書。「言語イデオロギー」に焦点を当て、日本や西洋諸国で展開された「言語学」の系譜(語用論、標準語・方言・文学、敬語、国語学)を批判的に位置づけている。歴史的連続性(指標性)のもとで展開されている(地政の意味)言語学に特化したアカデミックディスコースの分析とも言えるだろう。

言語人類学への招待 ディスコースから文化を読む(2019)

出版社:ひつじ書房
著者名:井出里咲子、砂川千穂、山口征孝

 古典的な内容から現代の社会文化研究として実施されている言語人類学の潮流を概説する入門書。著者三名の具体的な研究事例やそれを実施する上でのエスノグラフィックな体験を踏まえた内容が編まれている。特に、「第三部 拡大するフィールド」にて扱われる三章ー「変容する社会を捉える」「指標性から読み解く対立・差別・不調和」「メディアとコミュニケーション」ーこそが「重要」であり、今後の研究に繋がってほしいとの思いで編集されていったと著者から直接聞いている。しかし、そうした研究に至るまでの過程で「言語人類学」という分野が何をどのように捉えようとしてきたのか、それをこの本で確認するきっかけになると良いだろう。

言語人類学から見た英語教育(2009)

出版社:ひつじ書房
著者名:綾部保志 [ら編]

 出来事(視点;オリゴ)中心のコミュニケーション観を理論的基盤に持つ言語人類学のアプローチで日本的英語教育を批判的に読み解く論集。難解な社会記号論系言語人類学の文法的解説が第一章で比較的丁寧になされている貴重な書。『コミュニケーション論のまなざし』の次に読むことをおすすめする。

言語人類学を学ぶ人のために(1996)

出版社:世界思想社
著者名:宮岡伯人 [編]

 言語と文化の関係、フィールドワークと民族誌、音声学、認識人類学、言語相対論、言語の変容などなど、言語人類学における古典的要素がまんべんなくまとめられている。「言語イデオロギー」をはじめとした現代言語人類学的な内容はほぼないが、前史的展開を抑える上で参考になる。「第1章 文化のしくみと言語のはたらき」だけでもチェックしておくと良い。

言説分析の可能性 社会学的方法の迷宮から(2006)

出版社:東信堂
著者名:佐藤俊樹・友枝敏雄 [編]

 言説分析の「可能性」と題されているが、収められている論集ではむしろ「不可能性」が語られている。論者はもちろん、社会学内部における諸分野において「言説」の位置づけ方にはズレがあること、社会学理論におけるハードな言説分析の難しさをまとめている橋爪論文をチェックするのをおすすめしたい。

ことばと思考(2010)

出版社:岩波書店(岩波新書)
著者名:今井むつみ

 サピア・ウォーフの仮説として知られる「(強い・弱い)言語相対論」の概説が中心にされている。後半、心理学的調査で必ずしも「強い言語相対論」が言うような「世界の捉え方が全く異なる」ことはないとされていることはまず抑えておくべき。が、言語相対論が指摘した言語文化における「ズレ」の問題は社会記号論系言語人類学にも引き継がれていることも捉えておくとよい。

言葉とは何か(2008)

出版社:筑摩書房(ちくま学芸文庫)
著者名:丸山圭三郎

 比較的わかりやすく「ソシュール」の言語論をまとめている著作。(丸山が日本に紹介したソシュール理解のズレ?について指摘している方がいたかと思うがあやふやなので、チェックされたし。確認でき次第、追記する予定)

ことばと文化(1973)

出版社:岩波書店(岩波新書)
著者名:鈴木孝夫

「ことばと文化」について新書形式でまとめた古典的一冊。ただ、個人的には「言語」と「文化」の関係はもちろんあるものの、その後の著作でやや強引に結びつけている点があるので、安易に言語の特徴を文化として一般化することには注意されたし。

ことばの力学―応用言語学への招待(2013)

出版社:岩波書店(岩波新書)
著者名:白井恭弘

 問題解決のための言語学を応用言語学とし、第Ⅰ部では「多言語状況」、第Ⅱ部では「社会の中の言語」として全10章にて短くまとめられている。新書の読み物として言語と社会(問題)がいかに結びついているか、向き合うことができるのかについて知ることができる書物だと言えるだろう。

コミュニケーション論のまなざし(2012)

出版社:三元社
著者名:小山亘

 社会記号論系言語人類学を基点に、言語学からコミュニケーション論に至るまでの理論的枠組みを学部1・2年生向けに解説してくれる良著。メタコミュニケーションとして、俯瞰的に言語学・コミュニケーション論を整理しつつ、その営みをなす「学問とはなにか」ということまで丹念に著者のまなざしから語ってくれる珍しい書籍。とてもおすすめ。

社会・行動システム 講座社会言語科学5(2005)

出版社:ひつじ書房
著者名:片岡恭弘、片岡邦好 [編
]

 言語を社会的実践として位置づけ、社会制度や構造の中でパワー関係の配置やその過程を焦点に当てた論集。ことばと「イデオロギー」「権力」「公共福祉」「進化」「インタラクション」「活動空間」、計14本の論集が集まっている。社会言語科学会発の講座全6巻のうちの5冊目。

新版 社会言語学の方法(1996)

出版社:三元社
著者名:糟谷啓介、原聖、李守

 1996年に出版された本であるが、広義の「社会言語学」として各地域でどのように「社会」と「言語」を捉えるまなざしが発展してきたかをコンパクトかつしっかりまとめている。「広義の」としたのはいわゆる「言語人類学」をも「社会言語学」と記述しまとめているため、日本では数少ない言語人類学に関する言及を実はしているため貴重と言えるだろう。

相互行為におけるディスコーダンス 言語人類学からみた不一致・不調和・葛藤(2018)

出版社:ひつじ書房
著者名:武黒麻紀子 [編]

 社会記号論系言語人類学における「全体性、再帰、批判、歴史」を重視し、ミクロからマクロ、共時・通時的に展開する言語コミュニケーションに意識的/無意識的になされる「不調和・不一致」を意味するディスコーダンス現象を分析した論集。言語人類学が「調和・協調」的なものから「不調和・不一致」をも含みこんで扱っていることがよくわかる一冊。

談話言語学 日本語のディスコースを創造する構成・レトリックストラテジーの研究(2004)

出版社:くろしお出版
著者名:泉子・K・メイナード

『談話分析の可能性』『情意の言語学』 などで探求されてきた「日本語の談話的特徴と効果」について、既存の研究分野の位置づけにとらわれずにあくまで日本語の表現性を観察・分析・考察されたもの。

談話分析のアプローチ 理論と実践(2008)

出版社:研究社
著者名:林宅男 [編]

 談話分析における各アプローチを概説ではあるものの体系的にまとめ、実際の分析事例と基本用語を解説してくれる良著。「序」で研究の流れを追いつつ、自分の興味関心に沿うものから読むなど、辞書的な使い方ができる。

ディスコース分析の実践 メディアが作る「現実」を明らかにする(2016)

出版社:くろしお出版
著者名:石上文正、高木佐知子 [編]

 下記の翻訳書である『ディスコースを分析する』がやや難しいことを訳者たちも自覚していたことから「実践編」として、日本人研究者たちによる分析がまとめられた書籍。CDSの弁証法的アプローチの方法を知る上であると良い一冊。

ディスコースを分析する 社会研究のためのテクスト分析(2012)

出版社:くろしお出版
著者名:ノーマン・フェアクラフ

 副題の「社会研究のためのテクスト分析」とあるように、単なる言語学的な分析をするのではなく、哲学・社会学における概念などを援用して展開される批判的談話研究の弁証法的アプローチの専門書。初見で読むと難しいが、上記の「実践編」と合わせて読むと理解しやすい。できれば「哲学・社会学」の入門書的内容は抑えてから読むのをおすすめする。

入門語用論研究―理論と応用―(2001)

出版社:研究社
著者名:小泉保 [編]

 語用論の初歩的理論と応用をまとめている入門書。「オースティン」「グライス」「レヴィンソン」をはじめとした初期研究者や「直示」「推意」「前提」「言語行為」「談話分析」「丁寧さ」など、実際の事例込みで丁寧に学べるので最初に読むのにおすすめ。

はじめての言語学(2004)

出版社:講談社(講談社現代新書)
著者名:黒田龍之介

 言語学を大学で学ぶような「学問」としてではなく、高校で学ぶ「科目」として置き換えて簡潔に紹介してくれる新書。ただし、いわゆる「科学的」な言語学の要素が強い。最初の一冊として、サッと読んで概論を知るにはおすすめ。

批判的社会語用論入門 社会と文化の言語(2005)

出版社:三元社
著者名:ヤコブ・L・メイ

翻訳:小山亘

「語用論の社会学的展開」をうたっている。「言語学のゴミ箱」に追いやられてきた語用論を、「行動という形をとった言語使用に関わる言語的現象についての一般的、認知的、社会的、文化的視点」という定義を援用し、「ミクロ語用論」と「マクロ語用論」の観点から整理し解説する入門書。とても分厚い。大学3・4年生以上向け。

批判的談話研究とは何か(2018)

出版社:三元社
著者名:ルート・ヴォダック、ミヒャエル・マイヤー[編]

翻訳:野呂香代子、神田靖子[他]

 批判的談話研究の入門書第3版。CDAから考えると、登場から15年弱する中でまとまってきた論考を整理してくれている。CDSを学ぶ上では最初の一冊として持っておくべき。メインカラーで「赤」を選んでるのがベネ!

ポエティクスの新展開 プルリモーダルな実践の詩的解釈に向けて(2022)

出版社:ひつじ書房
著者名:片岡邦好、武黒麻紀子、榎本剛士 [編]

 言語人類学的な詩学を中心とした論者らによる論集。言語哲学的な社会記号論系言語人類学な射程とは異なり、プルリモーダルという談話分析的な枠組みから詩学の射程を論じている。この点は、片岡邦好「第1章 ポエティクスの射程 
近年の詩的分析の展開をふまえて」を参照。

明解言語学辞典(2015)

出版社:三省堂
著者名:斎藤純男、田口善久、西村義樹

 言語学用語をコンパクトにまとめている辞典。手元に持っておいて適宜参照するのに持っておくのがおすすめ。

「ゆとり」批判はどうつくられたのか 世代論を解きほぐす(2014)

出版社:太郎次郎社
著者名:佐藤博志、岡本智周

 教育学の分野であるものの、「ゆとり」言説を批判的に分析した書籍。資料や概念の変遷など、ディスコース研究を行う上で参考になる。単純に「ゆとり」というあやふやな概念がいかに社会的に構築され、恣意的に用いられているかを知っておくのに良い。