社会学はどのように誕生したか──近代における危機の学問と反省のまなざし

 社会学とはなにか。社会学は、「啓蒙思想が登場し、資本主義による分業化が進んだ近代において、方法論的全体主義に則り反省的に社会のありさまを見つめ直す危機意識によって生まれた学問」だと言える。つまり、社会学とは近代の反省の学として誕生した。けれど、いまやその近代社会を近代的なものとして捉えることは難しいグローバルで情報メディアが高度に発達した社会となってしまった。

 根本的な理論を作ろうとして上手くいかないまま社会学は現代に至った側面が否めない。社会学は分野横断的にさまざまなことを研究対象にすることができ、ある意味で掴みどころがない学問だと言える。 本記事では社会学とは何かを十全に説明しきるのではなくて、何がきっかけでどのような問題意識のもと誕生した学問なのか捉えたい1

社会学を捉える上でのキー概念

  • 市民革命(啓蒙思想)
  • 産業革命
  • 科学主義
  • 近代の反省

近代に登場した社会学

啓蒙思想・産業革命・科学主義

 社会学が登場したのは19世紀はじめに遡ることができ、オーギュスト・コント(1798 – 1857)が『実証哲学講義  第4巻』(1838)で初めて「社会学」ということばを使った(と言われている)2。19世紀に起こった歴史的背景に焦点をあわせると社会学が登場した理由が見えてくる。フランス革命を始めとし、ルソー、ホッブズらの啓蒙思想が市民革命へとつながり、伝統的な封建制が崩壊していく中で新たな社会秩序の形成への意識が向いていく時代だった。

 さらに重要なのが、技術革新による産業革命である。機械技術の登場により、農村から都市への労働者の移動が起こる中、労働問題や都市問題が発生するようになった。中世的な社会秩序が崩壊し、近代的な社会秩序も定着していない中での社会問題の発生は、危機の時代と認識することができる。市民革命、産業革命、さらにはそれを支える科学主義的な思考が近代を形作っていく過程にあったのだった。

近代の反省

 しかし、不安定ながらも近代的な秩序を形作る科学に対しての信頼が崩れていくことになる。というのも、科学の基本とも言える数学において非ユークリッド幾何学3不完全性定理4の発見、フロイトの精神分析による無意識の存在も発見されていく。

 これは芸術の分野においても呼応する関係があり、これまでリアリズムとして「美」というものが洗練された技術によって表現されてきたのに対し、キュービズム(例:ピカソの抽象的な絵画)といったモダニズム芸術5が登場し、メタ的に「美とは何か」ということが作品を通して問われるようになっていた。つまり、芸術にせよ学問にせよ、近代に対する反省が自覚されるようになったその時に、市民革命や産業革命で形作られていった「近代における社会とはなんだったのか」という問題意識から登場したのが社会学ということになるわけである。

まとめ

社会学は、まさしく「社会」の発見をもってはじまる。

クロニクル社会学 人と理論の魅力を語る』(2頁)

 市民革命や産業革命といった揺れ動く歴史の流れの中で、当事者となった人々が向き合った末に出会ったのが「社会」という存在だったわけだ。次の記事は、このような背景を元に登場した社会学ではどのような考え方がなされているのかについて解説する。

著者 :稲葉振一郎

出版日:2009年6月

出版社:NHK出版

『社会学入門  〈多元化する時代〉をどう捉えるか』

 (4)

¥1,177(税込)

パーソンズ以降、社会学の中心理論の不在が続く現状を捉え直し、ダイナミックに変容する現代社会を分析する上での、社会学の新たな可能性をも探る、著者渾身の一書。[公式]

  1. 稲葉振一郎(2009)『社会学入門 <多元化する時代>をどう捉えるか』を主に参考 ↩︎
  2. 監修:茂木健一郎(2016)『学問のしくみ事典↩︎
  3. ユークリッド幾何学が平行線は交わらないという公理を出発点にして成り立っているのに対し、非ユークリッド幾何学では平行線は交わるという公理から出発しても一貫した幾何学の体系ができてしまう。また、量子力学の登場によりユークリッド幾何学よりも非ユークリッド幾何学の方が正しいことが明らかになった。 ↩︎
  4. ゲーデルが発見した定理であり、ごく簡単に言ってしまえば数学的に自然数を証明することができないことが発見された。これにより、一貫して矛盾のない数学的な体系を作ろうとするヒルベルト・プログラムが成り立たないことが証明されてしまった。 ↩︎
  5. モダニズムというと近代主義のように取られるかもしれないが、反近代的な意味合いがある。もっと正確に言うならば「近代の自意識」とも言える。 ↩︎